卵管鏡下卵管形成術
卵管鏡下卵管形成術
卵管鏡下卵管形成術 (Falloposcopic Tuboplasty: FT)は, 女性の卵管に閉塞や狭窄部をもつカップルに対する治療法として開発されました. 卵管に問題のあるカップルに対する標準的な対応として, IVFが広く提案されています. 卵管のみならず, その他の要因をもつカップルにとって, IVFが極めて有用であることには疑いようがありません. しかし卵管鏡下卵管形成術は, 何らかの理由でIVFが選択肢とならないカップルにとって大きな役割を果たす可能性があります.
私は, 慶應義塾大学医学部 産婦人科学教室にてこの技術の開発者である末岡 浩先生のグループに長らく所属し, 年間で50-70の事例に対して手術を実施して参りました. また, 機器の改良に参画する中で, その特性についての理解を一層深めることが出来ました. 今後はこの湘南 藤沢の地に住む皆様に, この画期的な手術を提供して参りたいと思います.
子宮卵管造影検査 (HSG)などを受けて, 卵管の閉塞あるいは狭窄を指摘されることがあります. 卵管は精子と卵子が受精を起こす場所です. 卵管の閉塞機転があれば, 精子が受精の場所まで到達することすら出来ません (図1-1). この手術では卵管の閉塞部位に向けて, 水圧により拡張させた直径1.2mmの風船状のカテーテルを伸長させ (図1-2), 閉塞部位を愛護的に拡張・閉塞を解除させます (図1-3).
卵管に閉塞がなくとも, 卵管の機能が損なわれている可能性があります. 卵管鏡下卵管形成術においては, バルーン・カテーテル内に搭載した. 0.6mmもの細小の内視鏡が卵管内の観察を可能とします. これにより卵管内のコンディションに関する多くの情報を得ることが出来, その所見に基づいて, 術後の治療戦略に大きな幅を持たせる効果が期待できます.
卵管の閉塞や狭窄を解消することで, 精子および卵子を受精の場所まで導き, 受精後の胚が子宮内に到達する可能性を高め自然妊娠の可能性がが向上します.
この手術はごく細径の内視鏡 (卵管鏡)とバルーン・カテーテルを使用するため, 閉塞部位の愛護的な操作が可能となり, 手術中・後の痛みが少なく回復期間もごく短いものです. 静脈麻酔下に実施するため, 多くの患者様は子宮卵管造影検査よりも楽だったという感想をお持ちです.
この手術は, 非常に我が国固有のユニークな治療であり, 保険収載されこそいるものの確立された当たり前の医療と呼ぶには今尚データの集積が必要です. 卵管鏡下卵管形成術, 実施後の妊娠・出産の成績の比較や術後の卵管閉塞の再発のリスクを調べる大きな規模の臨床研究の実施が望まれます.
卵管鏡下卵管形成術は保険収載されています. かつ, 高額医療の申請をいただくことで収入に応じた医療費をご負担いただくことが可能です. 近年IVFは条件付きで保険診療となりましたが, これは必ずしも安価であるとは限りません. 高額なIVFの実施を躊躇している若いカップルにとっては, 強力なツールとなる可能性があります. また, 自費での診療を余儀なくされる方もいらっしゃいます. 自費診療下のIVFが選択肢とならない卵管性不妊のカップルを中止に, 卵管鏡下卵管形成術の実施を希望する事例が増えております.
飲水・食事の制約
通常, 手術当日の朝食は控えていただくことをお願いしています. 飲水も少量の透明な水(水・お茶・スポーツドリンクなど)のみに留めていただくようにお願いしています. 手術時に胃の内容物が多いことは, 術後の誤嚥性肺炎のリスクが上昇するためです. 手術当日には, 絶飲食のための脱水を補正するために点滴ラインを確保させていただきます. 手術当日の麻酔・鎮静剤の使用にも必要となる重要な処置です.
手術
手術室に移動して, 静脈麻酔を開始します. 意識のない状態で, 医師が卵管鏡操作を開始します. 卵管の閉塞部位に向けて, 水圧により拡張させた直径1.2mmの風船状のカテーテルを伸長させ, 閉塞部位を愛護的に拡張・閉塞を解除させます. 同時に, バルーン・カテーテル内に搭載した0.6mmもの細小の内視鏡が卵管内の観察を可能とします. これにより, 卵管内のコンディションに関する多くの情報が得られます. 手術時間は個々の状況によって異なりますが, 通常は20-30分以内に完了します.
手術後 経過について
手術後は手術室内で意識の覚醒するのを待ち, その後リカバリー・ルームへ移動してしばらくお休みいただきます. 麻酔の影響や術後の疼痛がないことを確認した後にご帰宅をいただきます.
卵管鏡下卵管形成術の目的や効果について理解しましょう. 主な目的は, 卵管の閉塞や狭窄を解消し自然妊娠の可能性を高めること, あるいは卵管内の所見を得る事によりIVFを回避して自然妊娠を目指しても良いかの判断を行うことにあります.
ご自身が卵管鏡下卵管形成術の良い適応であるのか, 手術に伴うリスクや合併症についても担当の医師と相談しましょう.
通常なら術後翌日から, いつもと同様の日常生活を送ることが可能となります.
保険収載されている卵管鏡下卵管形成術の費用や高額療養費制度の利用について理解を深めておいてください.
これらのポイントを考慮して, 十分な情報収集と医師との十分な話し合いを行うことで, 自身の治療計画を十分に理解し, 納得した上で治療に臨むことが重要です.
健康保険の利用が可能です. 高額療養費制度を利用する場合, 標準報酬月額に応じて次のような自己負担限度額となります. 限度額認定証の取得手続きは、以下の手順で行ってください.
所得区分 | 自己負担限度額 | 多数該当(※2) |
---|---|---|
① 区分ア (標準報酬月額83万円以上の方) |
252,600円+(総医療費※1-842,000円)×1% | 140,100円 |
② 区分イ (標準報酬月額53万~79万円の方) |
167,400円+(総医療費※1-558,000円)×1% | 93,000円 |
③ 区分ウ (標準報酬月額28万~50万円の方) |
80,100円+(総医療費※1-267,000円)×1% | 44,400円 |
④ 区分エ (標準報酬月額26万円以下の方) |
57,600円 | 44,400円 |
⑤ 区分オ(低所得者) (被保険者が市区町村民税の非課税者等) |
35,400円 | 24,600円 |
例えば, 両側の卵管に対して卵管鏡下卵管形成術を実施した場合, 片側卵管に対する手術の保険点数が46410点であることから, 総医療費は, その2倍の費用(928,200円)がかかります.
年収が600万円の方の標準報酬月額は53万円~79万円に該当し, 「区分イ」に分類されます. この場合, 自己負担額は次の通りです.
具体的な計算方法は以下の通りです.
この例では, 自己負担額は合計で171,102円となります.
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