
卵子凍結
卵子凍結
卵子凍結は, 通常のIVFのプロセスと同様に卵子細胞を採取し, ごく低温で “凍結保存 (ガラス化)”する技術です. この卵子を, 将来の男性パートナーの精子と共にIVFの診療に供することにより, 望んだタイミングで妊活を再開出来ます.
卵子凍結は, 「医学的適応による卵子凍結」と「社会的適応による卵子凍結」とに大別されます.
医学的適応による卵子凍結は, 抗がん剤治療の影響により, 排卵誘発剤に反応する能力や, 排卵そのものが著しく阻害される可能性がある場合に, その治療の開始に先立って卵子を凍結し, 体外で保管します.当院は, 厚生労働省が推進する「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」における, 卵子・受精卵凍結の実施機関として認定を受けております.
一方, 社会的適応による卵子凍結は, 特に妊娠に適した年齢層にある女性のうち,
を中心に, 広がりを見せています.
年齢の上昇に伴って, 卵巣に貯蔵される卵子の「数」や「質」は, 徐々に低下していきます. そのため, 将来の妊娠・出産の可能性を保つ選択肢として, 加齢に伴う変化が現れる前に卵子を凍結しておくことが, 現実的かつ合理的な判断となります.
「いつかは子どもが欲しい」と思っている方にとって, 将来の妊娠の可能性が時間とともに狭まっていくことへの不安は, 決して小さくありません. 卵子凍結は, そのような不安をやわらげ, 人生の計画において“今”を大切にしながら, 将来の選択肢を残す方法とも言えるでしょう. また, 仕事や勉強, 関心事に思いきり取り組めるようになるという側面もあります.
卵子凍結は, 個々のライフスタイルや価値観, ご希望に応じて検討すべき選択肢です.
当院では, お一人おひとりのご状況を丁寧に伺いながら, 必要に応じて専門医とともに最適なプランを一緒に考えて参ります.
卵子凍結を検討する前に, 医師と十分なカウンセリングを行います. あなたの健康状態や個々の状況を確認し, 卵子凍結が適切な選択肢であるかどうかを一緒に確認します. 当院が凍結卵子の保管先として提携している「Grace Bank」も, 無料の個別相談を行なっていますので, 是非ご活用ください.
卵子凍結には, 一般的に保険は適用されず, 比較的高額な費用がかかります. 一部の自治体では助成金制度が整備されつつありますが, 内容は地域によって異なります. 東京都では「卵子凍結に係る費用への助成」・「凍結卵子を使用した生殖補助医療への助成」を開始しておりますが, 現在まで, 神奈川県では助成金事業は運営されておりません. 費用の負担や利用できる制度について, 事前に把握しておくことが大切です.
卵子の凍結と融解の過程は, 凍結した卵子がその後どの程度良好な状態で保たれるか, また妊娠に結びつくかどうかに影響を及ぼします. 現在では, ガラス化法 (vitrification)と呼ばれる急速凍結の技術が主流となっており, 従前に比べて, 格段に高い生存率や妊娠の可能性が得られるようになっています. この技術に基づく融解後の卵子の生存率は約90% (85-97%)とされ1,2, 顕微授精 (ICSI)による受精率もおおよそ71–79%の範囲にあることが報告されています2. ただし, 凍結した卵子すべてが受精し, 妊娠に結びつくとは限りません. 年齢が上がるにつれて, (染色体異常などに原因する)卵子の質の低下が観察されることから, 受精率や胚の発育に影響が出やすくなることが知られています. そのため, 何歳で凍結するか, どのくらいの数の卵子を保存しておくかは, 将来の妊娠の可能性に大きく関わってきます.
以下は, これまでに蓄積されてきた臨床データから見えてきたおおまかな目安です. 卵子10個あたりの妊娠到達率の目安を, 年齢別に示しています.
年齢層 | 妊娠に至る可能性 | 参考文献 |
---|---|---|
30歳以下 | 約80% | Goldman et al. 20173 |
31-34歳 | 約75% | Cobo & Garcia-Velasco 20161 |
35-37歳 | 約50-55% | Doyle et al. 20164 |
38-40歳 | 約30% | Goldman et al. 20173 |
41歳以上 | 10-20% | Cobo & Garcia-Velasco 20161 |
以上のデータに基づけば, なるべく若いうちに卵子を凍結するほど, その効果を実感しやすくなると考えられます. また, 凍結する卵子の数としては, 10個以上, 可能であれば20個以上を目指すことが, 将来の妊娠につながるための現実的な目標として多くの研究で提案されています. この数は絶対ではなく, 実際には体の状態やライフプランに合わせて一緒に考えていく必要があります. 当院では, 医師との対話の中で, ご本人にとって納得のいく計画を立てることを大切にしています.
当院では, 原則としてGrace Bank (グレイスバンク)に凍結卵子を保管して頂く様にご案内申し上げております. 凍結卵子の保管は長期間になることも見込まれます. 医師の急病などでクリニックが閉鎖してしまった場合でも, 凍結卵子がグレイスバンクに保管されていれば, 慌てて転院先を探して頂く必要はありません. また, 転居に伴い当院への通院が難しい場合でも, グレイスバンクと提携している全国のクリニックへの凍結卵子の移送が可能です. Grace Bankの利用には事前の会員登録をお願い申し上げております (登録はこちらから).
採卵周期の開始に先立ち, 意思表明を頂いた方には手術前検査の実施をお願いしております.
月経が始まってから数日以内にご来訪頂き, 排卵誘発剤の使用を開始します.
当院では, 注射製剤による「高刺激法」を用いた採卵周期を推奨しています.
これは, 目標とする卵子数 (10-20個)を, できるだけ少ない回数の採卵で確保することを目的としています.
注射はご自身で行っていただく「自己注射法」を採用しております. 毎日の通院は不要です.
注射の開始日と, 卵胞径計測と採卵日決定のための1-2回程度のの診察日および採卵術の当日を含め, 通院は全体で3-4日程度を目安としております.
採卵は, 通常であれば朝に実施致します. 採卵術は午前中に終了することが多く, 状態が安定していれば午後からお仕事に復帰される方もいらっしゃいます. 採卵術は安全な手術ですが, 適切な麻酔法を採用することにより, 痛みと恐さを和らげることが可能です.
図. 卵子凍結までのスケジュールの例
ホームページ上の「料金表」と合わせて, 以下の「料金シミュレーション」をご参照下さい (全て当院の自由診療の価格設定です).
ヒスロン (55円/錠) | 2,200 円 (11日分) |
AMH検査料 | 6,050円 |
診察料 (再診料: 2,200 円) | 11,000 円 (5回分) |
超音波検査料 (2,200 円) | 11,000 円 (5回分) |
HMGあすか 300 (4,290 円) | 55,660 円 (11回分) |
ブセレリン点鼻用 | 7,150 円 |
採卵手術料金 | 55,000 円 |
静脈麻酔料 | 38,500 円 |
卵子凍結・基本料金 | 99,000 円 (ヒアルロニダーゼ準備料と1個凍結) |
さらに追加14個 (*9,900 円) | 138,600 円 |
合計 | 421,960 円 |
ヒスロン (55円/錠) | 2,200 円 (11日分) |
AMH検査料 | 6,050円 |
診察料 (再診料: 2,200 円) | 11,000 円 (5回分) |
超音波検査料 (2,200 円) | 11,000 円 (5回分) |
レコベル 72 μg (57,200 円) | 114,400円 (2キット) |
ブセレリン点鼻用 | 7,150 円 |
採卵手術料金 | 55,000 円 |
静脈麻酔料 | 38,500 円 |
卵子凍結・基本料金 | 99,000 円 (ヒアルロニダーゼ準備料と1個凍結) |
さらに追加14個 (*9,900 円) | 138,600 円 |
合計 | 482,900 円 |
上記に加えて, Grace Bankにおける保存にかかる費用: 55,000 円 (初期費用)および35,000 円 (保管費用/年)が必要となります.
卵子凍結にかかる費用は, 主に排卵誘発に使用する薬剤の種類と量, そして最終的に採取された卵子の数によって変動します.中でも, 費用に最も大きく影響するのは採取された卵子の数です. 採卵数が増えるほど, 凍結・保管にかかる処理や手技も増えるため, 総費用も高くなる傾向があります. 排卵誘発剤の使用量を過度に増やすと, 卵巣過剰刺激症候群 (OHSS) のリスクが高まる一方で, 薬剤量を控えると採卵数が減少し, 目的とする凍結卵子数に届かない可能性もあります.
当院では, 安全性と効率のバランスを重視しながら, 患者さま一人ひとりに合わせた排卵誘発計画を立て, 無駄のない適正な費用設計を心がけています.
Grace Bankはさい帯血保管を行うステムセル研究所にあります. ステムセルの保管システムは24年間無事故を誇り, 最新のモニタリング機器と厳重なセキュリティ設備で患者様の大切な卵子をお預かりします. 将来, 凍結した卵子を使って体外受精をする際は全国にある提携クリニックにて凍結卵子を利用した不妊治療を受けることができます.
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