良好な胚なのに, 着床しないのはなぜ?|藤沢IVFクリニック|藤沢駅・産婦人科・不妊治療・体外受精・生殖医療

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良好な胚なのに, 着床しないのはなぜ?

良好な胚なのに, 着床しないのはなぜ?|藤沢IVFクリニック|藤沢駅・産婦人科・不妊治療・体外受精・生殖医療

2026年1月06日

良好胚を戻しても着床しないという現実

グレードの良い胚を戻したのに, なぜうまくいかないのか?

「グレードの良い卵 (受精卵)を戻したのに, 今回もダメだった…」 「検査では特に異常がないと言われているのに, どうしても着床しない」

不妊治療, 体外受精 (IVF)の診療に携わる私たちにとって, 妊娠判定日の陰性結果ほどフラストレーションが溜まるものはありません. ましてや, 当事者である患者さんにとっては, なおさらのことです. 移植までは順調にステップを進めてきても, 最後の「着床」という壁の前で, 繰り返し「足踏み」をしてしまう方は少なくありません. 

この記事では「なぜ着床に至らないのか」という問いに対して, どのように考えるべきなのか? お話し致します. 

失敗が続くと, 人は「理由」を探し始める

見た目に綺麗な「良好胚」を移植しても, 上手くいかないことの方が多いことも事実です. 初回の失敗であれば, 「次は, きっとうまくいくでしょう」とお伝えできるかもしれません. しかし, 2回目, 3回目, あるいはそれ以上不成功が続くと, 多くの患者さんが, 診療に携わる多くの医師ですら, 「何か上手くいかない理由があるはずだ」と考え始めてしまいます. そして, そこで「何らかの病態=診断名」を求めるようになるのです. これは, 医学的には「反復着床不全 (はんぷくちゃくしょうふぜん): recurrent implantation failure (RIF)」と呼ばれることがあります. 

反復着床不全 RIF という診断名は実在するのか?

ここで疑問を投げかけてみます. 「そもそもRIFという病態は実在するのか?」と.  

数学モデルから見た「RIFの有病率」 

以下は, 2022年7月にスイス・ルガーノで開催された「反復着床不全(RIF)ワークショップ」における議論の内容です. アメリカ生殖医学会の学会誌でもある “Fertility and Sterility” 2023年7月号に掲載された数学的な視点から説明しています1

図1: 初回から3回目までの胚移植周期における, RIF患者の割合の変化

実データが示す, RIFは「濃縮」していないという事実

濃い緑は, 「理論上, 反復着床不全という特性を持つ人たち」を仮定したものです. この「RIF患者さん」が, 1000人中の10%に存在すると仮定します. この100人は, どんなに良好な胚を移植しても着床出来ない方々です. 

青が妊娠に成功する人, 緑が妊娠に至らない人です. 

染色体異常のない胚の, 移植あたりの持続着床率 (胎児心拍が確認できた人の割合)が70%であると仮定すると, 初回の胚移植で, 900人のうちの70% = 630人が出産に至ります.

2回目の胚移植の時点では, 出産に至っていない患者は合計370人となり, その内訳はRIFを有する100人と, RIFを有さない270人です. 

このRIFを有さない患者群に対して, 再び染色体異常のない胚の移植により, 70%の持続着床率が見込めると仮定すると, 370人 (実際にはRIFではない270人)のうち, 189人が出産に至るはずです. 2回目の胚移植あたりの着床率は, 51.0% (189/370)となるはずです.  

3回目の移植時点では, RIFを有する患者は依然として100人残存し, RIFを有さない患者は81人となります. この結果, 3回目の胚移植で着床する人は, 56.7 人 (81人の70%)となります. したがって, 3回目の持続着床率は31% (56.7/187)となるはずです. 

このように, もしRIFという集団が存在するのであれば, 2回目・3回目の胚移植を行うと, その集団が“濃縮”されてくるはずです. 2回目の移植では成功率が, 70%よりも明らかに低くなり, さらに3回目の移植では, 「決して妊娠しない人たち」がより大きな割合を占めるようになり, 成功率はさらに下がるはずです. 

もし本当にRIFが実在するのであれば, 胚移植を重ねるごとに, 成功率は階段状に下がっていくはずなのです. 

ところが, 実際のデータを見るとそうはなっていません. 

RIFは存在しても, ごく少数である

2021年に, アメリカ・ニュージャージー州のグループにより報告された, 染色体正常な胚を用いて胚移植を最大3回まで連続して行った大規模研究があります2

図2: (左) 1-3回目の移植あたりの成功率 (右) 1-3周期までの累積妊娠率

では, 初回の胚移植と, 2周期目・3周期目の移植の成功率を見てみましょう (図2: 左). 1度目の胚移植の成功率は69.9%ですが, 2周期目および3周期目では, それぞれ59.8%および60.3%と, 「横ばい」になっています. もしRIFの患者さんが, 患者さんの10%までに存在するならば, 2周期目と3周期目の成功率は, 51.0%と31%まで減少するはずでしたね? 「何度移植しても妊娠しない集団がどんどん濃縮されていく」現象は観察されておりません. 

このデータだけで, 「RIFの患者群など存在しない」と結論すれば, 少し言い過ぎかもしれません. ただし, RIF患者群が全体に占める割合は10%よりは少ないだろう, ぐらいなら言えそうです. 

(図2: 右)は, 移植するごとに累積してどれだけの患者さんが持続着床に至るかを調べています. 3回目の移植までの累積持続着床率は95.2%でした. すなわち, 染色体異常のない胚を3回移植さえすれば, ほぼ全員が妊娠・出産に至ることを示しています. これを根拠に, ルガーノ・ワークショップでは, 「染色体異常のない胚を3回移植しても着床しない群」をRIFと定義することを提案しています. その有病率は5%以下 (4.8%程度)であり, 恐らく1-4%の間であろうとも結論づけております. 

PGT-Aがない環境で, 何回の移植が「十分」なのか

わが国では, 胚の染色体数を調べるPGT-Aと呼ばれる技術に, 誰もが容易にアクセスできる状況にはありません. そのため, 「PGT-Aを実施していない形態良好胚を, 何回戻せば十分と言えるのか」という疑問が生じます. ルガーノ・ワークショップでは,観察されている染色体異常率をもとに,年齢別に必要な形態良好胚の移植数が推定されています.

表1. 染色体異常のない胚の3つに相当する年齢別の形態良好胚の数

具体的には, 35歳未満では良好胚4個, 35-37歳では5個, 38-40歳では7個, 41-42歳では13個, 43歳以上では27個の移植が, 正常倍数性胚を3回移植した場合に相当するとされています (表1). もし39歳なら, 累計で7個の胚を移植した後で着床に至らなくとも, RIFとは言えないことになります. このように,着床の評価は単純に「移植回数」だけで判断するのではなく,年齢と胚の遺伝的背景を踏まえて行うことが重要です.

多くの場合, 「RIF」というより「反復IVF不成功

1度か2度の移植の不成功に直面し, 「良好胚を戻しているのに着床しないのは」子宮側に原因があるのではないか? そう考えることは, 尚早だと言えそうです. 「あなたは反復着床不全の患者です」と医師に伝えられれば, そう思うことも無理もないことです. 多くの場合, 「RIF」という病名は適切ではなく, これは単に「反復IVF不成功」と呼ぶべき状態です. 多くはやはり胚の遺伝的状態の異常に原因しており, 必ずしもなんらかの病態が存在するとは言えないのです.

本当に子宮側を疑うべきケースは限られている

着床を阻害しうる器質的異常が存在する事が, 子宮側に強く疑われる事例もあります. 生まれつき子宮の形態に特徴がある方々や, 子宮筋腫や過去の手術の影響等のために内膜が変形・癒着していたり, 薄くなっている方などです. 

Add-onsと呼ばれる治療の位置づけ

超音波検査や子宮鏡などで明らかな問題がない状況では, エビデンスに乏しい様々な選択肢を, さも有用であるかのように提案されることがあります. 具体的には, 子宮内膜受容能検査・子宮内膜擦過術 (スクラッチ)・免疫療法や血小板注入療法 (PRP療法)などが該当します. もし, これらの付加的療法 (add-ons)と呼ばれる検査・治療の多くが「研究と実用の間」にあることをよく理解した上で, 費用感を含めて自身にとって「害が少ない」と判断できるなら, それが実施の条件となるでしょう. 願わくば, 臨床研究の協力者として治療を受けることが理想です. 

「何かしてあげたい」 気持ちが, 必ずしも患者利益にならない

そうでなけば, 患者さんを必要以上に期待をさせながら, 医療資源を浪費し, 時に不必要な侵襲や経済的な負担をもたらし, 検査結果に振り回された結果として貴重な時間も失うことになりかねないのです. IVF診療の分野では, 技術の進歩が早い一方で, 十分な検証が追いつかないまま臨床に導入される検査や治療が多く存在することも事実です. 効果が曖昧であることを知ってか知らずか, このような検査や治療の提案をする施設は, 現在も今尚多いと感じます. 繰り返される失敗を前にして「何か新しいことをして差し上げたい」という医療者側の心理があることも事実ですが… 果たして, それは本当にフレンドリーな診療でしょうか?

個々のadd-onsの問題点については, 今後もこのコラムを通じて発信していきます. 

科学的に確立された治療を, 冷静に積み重ねる

RIFという定義の曖昧な診断名を根拠に, 科学的裏付けの乏しい治療を重ねてはいけません. 現実的な見通しを医療者と共有しつつ, 確立された治療を丁寧に継続することが, 多くの方々にとって合理的な選択肢となります. 本稿を通じて, その理解が深まれば嬉しく思います.

1          for the participants to the Lugano, R. I. F. W. et al. Recurrent implantation failure: reality or a statistical mirage?: Consensus statement from the July 1, 2022 Lugano Workshop on recurrent implantation failure. Fertil Steril 120, 45–59 (2023). https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2023.02.014

2          Pirtea, P. et al. Rate of true recurrent implantation failure is low: results of three successive frozen euploid single embryo transfers. Fertil Steril 115, 45–53 (2021). https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2020.07.002

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