2025年3月24日
「牛乳のような点滴」を見たあの日から ― プロポフォールと医療安全
当院では, プロポフォールを用いた鎮静法について詳しく解説したページをご用意しております. 痛みや処置への不安を抱えるすべての方に, 少しでも安心していただけたらと願い, 本記事をお届けします.
プロポフォール製剤は, 白く濁った「脂肪乳剤」です. 私が医学部の学生だった頃, 救急医学の臨床実習中に, 初めて実際に使用されている場面に立ち会いました. 脳出血の術後, 集中治療室に入院中の患者様の点滴ラインに, 横から注入されていた「牛乳のような」液体を見て, 思わず驚きました. 「これって大丈夫なのかな?でも…使われているってことは, 大丈夫なんだよな…」と, 独り言ちたことを覚えています.
当時は, 1990年に日本国内で発生した「牛乳誤投与による死亡事故」の記憶がまだ社会の中に色濃く残っていました. 医療機関で誤って経管栄養用の牛乳を静脈内に注入したことにより, 患者様が亡くなったという痛ましい事故です. その教訓を受けて, 医療現場では接続ルートの識別の徹底, コネクターの規格統一, 医療者への安全教育の強化など, 医療安全の分野で大きな改革が進められました.
そんなプロポフォールは, 現在では採卵時の鎮静をはじめ, 例えば胃カメラによる検査の際など, 多くの医療現場で安全に使われております.
当院では, 従来法の卵管検査 (ヨード系造影剤とX線撮影を組み合わせた子宮卵管造影法)に替えて, 比較的に痛みが少ないとされる超音波子宮卵管撮影検査を導入しておりますが, それでも痛みへの不安を完全に払拭できない患者様には, プロポフォールを併用して検査を実施することもご提案しております. 検査後には, リカバリー・ルームのベッドでお休み頂き, 意識レベルの回復を確認した上でご帰宅頂いております.
採卵術の直後に「久しぶりにぐっすり眠れた気がする」といったご感想をいただくことも多く, 手術が10分程度で終了したことをお伝えすると, 皆様驚かれます. 普段から忙しく過ごされ, 心身ともに疲労がたまっている方にとって, 処置の時間が思わぬ「休息のひととき」となることもあるようです.
プロポフォールは, 安全性と快適性の両立を可能にする優れた薬剤です. 痛みや処置に対して不安を感じる方に, より安心して医療を受けていただけるよう, 今後も私たちは一人ひとりに寄り添った麻酔管理を提供して参ります.