体外受精
体外受精
体外受精は, 現代の生殖医療におけるメイン・ストリームとなる治療法です. 体外に射出された精子と手術により採取した卵子を, 培養液内で受精させ, 発生した受精卵(胚)を子宮内に移植することを基本技術とします.
IVFは, 不妊症のカップルのための治療の一環として, さまざまな原因・事例に対して実施されます. また近年では, 必ずしも“不妊症”とは限らない方に対する実施も増えつつあります.
IVFは, 開発の当初(1970年代後半)は卵管性不妊のカップルのみに対して開発された経緯がありました. その後, 例えば男性側に原因のある事例にも強力な効果があることが判明しました. 現在では, さらにその適応を拡大しておりますが. 近年は女性側の年齢に関連する不妊症の事例や, 原因が1つではないカップルに対する実施が増えつつあります. 以下は、IVFの対象となる疾患・事例です.
IVFは, 現在では幅広い目的のために実施される医療です. 必ずしも“不妊症”のカップルに対してのみ実施されるわけではありません. 何らかの遺伝性疾患の子どもを産むリスクのあるカップルが, その予防を目的として受精卵の遺伝子検査を行うことがあります. この着床前遺伝子検査と呼ばれるIVFは, わが国ではその実施には一定の制約を伴いますが, 近年は確実に広まりをみせています.
がんの根治を目指す患者様には, しばしば化学療法や放射線治療が実施されますが, これには性腺への毒性の問題があり, 治療とは引き換えに子どもを望む個人の希望が奪われることがあります. 現在においては, がん治療に先立ち, 精子・卵子あるいは受精卵の凍結保存が可能です.
子どもを授かることを希望していながらも, 現在の条件や個人の状況により, 直ちには妊娠することが難しい場合, 卵子や胚を凍結し, 将来の妊娠に向けて保存するIVFが提案されます. 一部の自治体では, 限定的ながら「卵子凍結に係る費用」及び「凍結卵子を使用した生殖補助医療」への助成を開始しております. 原則として自費診療とはなりますが, これは現実的で実用的な選択肢であると言えます.
IVFは, 従来からホルモン剤(注射薬)の投与により, 「より多くの卵子を獲得する」ことを成功の要素としてきました. 近年, わが国では注射薬を使用しない “自然周期” 採卵に基づくIVFを好むクリニックが増え続けています. 本来ならの採取可能なはずの卵子数を敢えて損なっても, 「より自然な方法こそが、生物の繁殖に最適となる」と考える立場や, 「人工的な介入には副作用やリスクが増大する」ことを懸念するもの, あるいは何かのスピリチュアルな信条から受け入れられていますが, 果たして本当に近道でしょうか?
現時点での議論に結論はありませんが, 単純に採れる卵子の数が増えれば, 母親になれる女性が増えることには異論はなさそうです. Keep it simple and safe(KISS)の原則に基づき, 「無駄をそぎ落とし, 合併症は増やさない」安全で個別化されたIVFを提案します.
初期評価とカウンセリング
まずは, 妊娠に関わるお悩みや希望をお伺いし, 必要に応じて包括的な評価や検査を提案させていただきます. これには, 詳細な問診と血液検査, 超音波断層法による画像診断などが含まれます.
次に, 個々の状態に応じたIVFの成功率やかかる費用およびそのリスクなどについてご案内し, 理解をいただいた上で, 次のステップへご案内します.
排卵誘発
排卵誘発剤を使用して, 通常なら月に1個しか排卵しない卵子を複数成熟させます. 排卵誘発の過程では, 典型的には10-11日程度注射を打ちながら, 採卵に至るまでに2-3回程度の診察(超音波検査や血液検査を含む)が行われ, 卵子の成熟度を確認します. 現代は, 注射は自己注射が主流になっており, 連日通院する必要はなく, その負担は大幅に軽減が可能です.
卵子採取
卵子採取するための手術は, 通常, 産婦人科の診察に用いるエコーに針を沿わせて, 卵巣内の卵胞に針を刺入し, 卵胞内の卵胞液ごと卵子を吸引・採取します. 静脈麻酔を使用下で行いますので, 痛みや恐さを感じることなく採卵が可能となります.
精子採取
パートナーから精子を採取・ご提供いただきます.
受精
収集された卵子と精子を受精させます. これは, 原則として卵子と精子とを一緒の培養液内に入れた後に起こります. 精子が少ない事例や凍結卵子を使用する事例等では, 精子を顕微鏡下に卵子細胞の中に注入する「顕微受精」が実施されることがあり, わが国においては, 顕微受精が数の上で主流となっています.
胚培養
卵子が受精したことを確認したら, 引き続き培養器・培養液内で体外培養を継続します. 通常, 培養期間は5-6日(または2-3日)程度を要します.
胚凍結
安全性や移植あたりの成功率の観点から, 近年では発生した胚は直ちに移植されることなく, 1度凍結保存されることが主流になっています. 胚凍結の技術の進歩により, 凍結による胚へのネガティブな影響は, ほとんど克服されつつあると言えます.
胚移植
発生した胚は, 適切な環境の子宮内に移植されます. 移植する胚の数は, 原則として1つずつとなりますが. 個々の状況をふまえて個別に決定されます.
妊娠の確認
胚移植後の12日頃に, 妊娠(着床)の有無を確認するために, 血液検査により妊娠判定のための検査が行われます.
上記は現代のIVF診療の大まかな流れです. 実際には, 患者様のそれぞれの状況に応じ, 個別化した医療としてご案内いたします.
IVFの成功には様々な要因が依存しますが, そのなかでも最も大きなものは, 採卵時の女性の年齢です. 年齢以外のその他の要素も考慮に入れて, 個々の患者様に別に診療計画を立てていきます.
IVFは, あらゆる原因の不妊症に対応するのが効果的な治療法です. 歴史的には卵管閉塞や男性(精子側)に問題がある事例に対して広く実施されてきましたが, 現在では卵巣機能が著しく損なわれている事例や, 子宮内膜症に代表されるホルモン異常の事例においても, 他のどの治療法に比しても効果的です.
IVFは, その他の治療法よりも妊娠率が高いことに加えて, 妊娠に至るまでの期間を短縮させる効果も期待されます.
IVFにかかる医療費は高額になりやすいことはデメリットといえます. しかし, 近年はわが国でもIVFの診療が条件付きながら保険の対象として認められるようになり, 収入の不安定な若い世代を中心にこの問題は克服されつつあります.
IVFには, 排卵誘発剤の使用や採卵のための小手術などによる心身への負担が生じます. また, 治療の結果には不確実性が伴うため, 感情的なストレスを感じることもあります.
複数の胚を同時に移植することで, 移植あたりの成績を向上させることが可能となりますが, 同時に多胎妊娠のリスクが高まります. 多胎妊娠は, 早産や低体重児の出生リスクが増加する可能性があることから, わが国では胚を1つずつ移植することが基本のルールとなっています.
IVFには, 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や感染症などの合併症のリスクがあります. 特にOHSSは, 治療を受けなければ発症することのない病気であり, 一度発症すれば治療は比較的長期に及ぶことから, その予防は極めて重要になります. 「重症OHSS」を回避しつつ, 採卵周期あたりの妊娠の可能性を損なわないために, 個別化医療のための綿密な評価を実施して参ります.
IVFの実施を検討される方へ, 事前に知っていただきたいことがあります.
IVFの成功は, 様々な要因に影響されます. その他のいかなる治療法よりも妊娠・出産に至る可能性を高めると言えますが, 周期ごとの変動の範囲で, 上手くいかない事例も一定数観察されます. 治療の高い成功率とその不確実性についても十分に理解いただくことが診療計画の立案の上で重要となってきます.
IVFは経験豊富な医師や信頼できるクリニックを選び, 合併症のリスクを上昇させずに成功率を損なわない診療を丁寧に継続していくことが重要です. 治療の成功には、医療スタッフの知識と経験および正確な技術が不可欠です.
まずは一度, 当院へカウンセリングにお越しいただくことをお待ちしております.
私たちの考える検査と治療について, 是非とも話を聴きにご来訪いただけたなら嬉しいです. お二人のお役にたてますことを, スタッフ一同が心から願っております.
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